読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

褻の日記

耽美っぽい文章を書きます

いなか、のじけん

 『いなかの、じけん』。これは、異色の探偵小説作家・夢野久作が1927年に雑誌『猟奇』『探偵趣味』の両誌に発表したショートショートである。滑稽なものから陰惨な事件まで土着の風習と絡められた小話が20編続くのだが、『猟奇』という雑誌に作品が掲載されていたという事実からも分かる通り、ぞっとする内容の作品が大半を占める。この作品のユニークなところは、「みんな、私の郷里、北九州の某地方の出来事で、私が見聞致しましたことばかりです。」という作者による備考が作品に添えられているところである。つまり、実際にこのような因習に囚われた陰惨な事件が起きたのかもしれない、と読みながら読者は肝を冷やさずにいられないのである。現代社会に生きる私たちにとって、1920年代の片田舎など想像することしかできず、そのことが作品に妙なリアリティを与えている。作品を一つ一つ読み進めるうちに、読者は田舎のムッとしたくさいきれや、掘り返したばかりの土の匂い、もしくは湿った畳から立ち上る生臭さ、そんなものたちを想像の中で追体験することとなるだろう。

 このショートショートの中でも私がおすすめするのは「郵便局」という作品である。この作品の中には、知的障害を持つ美しい少女、他人の噂話にしか楽しみの見出せない人々、少女の凄惨すぎる最期と奇妙で不気味な子守歌といった恐ろしくも心惹かれずにはいられないモチーフがちりばめられている。一つのショートショートとして完成度が高い作品であるかというと決してそんなことはないのだが、倫理や道理が崩壊した先にある倒錯した美しさが短い中に凝縮されている。

 夢野久作というと『ドグラ・マグラ』、『少女地獄』など、読者をその作品の中で迷子にさせるような、そんな奇妙な作品が多い。しかし、今作はショートショートということもありシンプルで読みやすい構造なので、夢野久作という名前は聞いたことがあるが、手を出しにくい……という人にもぴったりの作品であるといえよう。ただ、今作品は紙媒体だと全集にしか収録されていないために、紙媒体で読むのはなかなか難しい。そのため、私がおすすめするのは青空文庫に収録されている今作品を読むことである。ぜひ検索して目を通してみてほしい。きっと陰鬱な世界が口を開けてあなたを待っていることだろう。